AEVE ENDING






「…そうすれば、なに?」

その白の正体を、確かめたくはないけれど。


促されたリィはしかし、その先を語る勇気がないとでも言うように再び唇を閉じてしまった。

静かな空間に、木々が揺れる影だけが落ちる。
幾何学の浅黒いそれらはどこか異質で、リィの不安をより一層深めていた。


―――この扉を開ければ、雲雀はあの白と対面することになるのだ。

あの煩わしい迄に眼を焼く、混濁した白に。




「…リィ」

その時、背後から彼女の親しんだ声色が背中を撫でた。
安堵の色も濃く振り向けば、やはり見知った顔に息を吐く。

「…ロゥ、」

自分と同じく真っ白な法衣を纏った片割れに、リィは小走りで寄り添った。

雲雀といえば、増殖した敵に鼻を鳴らす。
暢気なものだと思わずにはいられない。

なにを、躊躇っているのか。

彼らの仕事は、自身を桐生のもとへ導くことである筈なのに。



「二匹になったところで、僕に敵うと?」

苛立ちも露に言い放てば、双子はまるで鏡合わせのように同時に肩を揺らした。

「生憎、僕は無駄な時間をとられるのが大嫌いなんだ…」

その無駄な時間を稼ぐ莫迦は、もっと嫌いだけど。

咥内で吐き出された言葉に、双子が深々と頭を垂れる。



「お赦しを、雲雀様」
「この扉の先に、貴方様が望むものが」

決められた台詞を読み上げるように語るそれは、どこか憂いを含む。

「謝罪は要らない。僕を足止めする理由がないなら、邪魔しないで」

静かに吐き出された言葉は緩やかに双子を扉から退かせた。

じわりと滲む圧力に、リィとロゥは小さく息を飲む。

さらさらとなびく黒髪が雲雀の表情を隠し、なにを考えているのか、双子に気取らせず。



「雲雀、様…」

この先には、貴方の。

リィが引き留める前に、それをロゥが制していた。


その言葉を、神は望まない。





(橘を、)


望むのは、ただひとつ、







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