AEVE ENDING






真白な部屋の中央に、ぽつりと椅子が置かれていた。
紅いベルベッドに、装飾の美しい木枠のロココ調家具。

美しい曲線は、桐生が好むもの。
そこから視線を反らせば、庭へと続く窓は全開で、白い刺繍のカーテンが緩やかな風に靡いていた。

浅い陽光に照らされた空間。

血は、似合わない。

静か過ぎる空間を、雲雀は表情を変えることなく見渡した。
背後を探るが、双子が部屋に入ってくる様子はない。

(役目は終えたと、退がったのか…)

皆無になってしまった気配に、雲雀は小さく息を吐き捨てた。


風も吹かない。
鳥も鳴かない。

静か過ぎて、響いているのは、静寂に慣れぬ鼓膜だけ。


(つまらない…)

波の音が聞こえる西部箱舟で過ごした数ヵ月の間に、この暮らし慣れている筈の東部の違和感に過敏になってしまったのか。

桐生の能力により、外界の影響から完璧に遮断された箱庭。
まさしく箱舟と呼ぶに相応しい、閉鎖された場所。


(西部箱舟は、収容所としての機能は不十分、か…)

けれど今、胸に沸くこの不愉快な郷愁は?


―――この東部箱舟なら、修羅と崇められる自身に歯向かう者などいない。

それこそなにもかも、望むもの全てが自由になる。

そしてそれは、雲雀がこの世に生を受けてからずっと続く誓約であったのだ。
雲雀が右と言えば右、左と言えば左と、群衆は彼に従い焦がれ、そして跪いてゆく。


(…それが、当然だった)

それこそ、そのつまらない世界に一生浸ったままなのだと。

それは、諦めに近かったのだろう。





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