AEVE ENDING
「…、」
微かに香ってきた薬品の臭いに、雲雀は眉間に刻む溝を深めた。
倫子の首を捕らえたまま、桐生は笑みを漏らす。
「…見たまえ」
カチリ、と脳内で音がした。
瞬間、暗闇の壁に写し出される、それに。
「―――…、」
息を、飲む。
(罪の名を、教えて)
それは肉塊、であった。
みずみずしいピンク色をした巨大で歪なボールのようなそれは、人の皮膚を剥ぎ、外と内を逆転させたような生々しい外観をしている。
全体を毛細血管が網目のように走り、生きている証に、とくりとくりと表面が蠢いていた。
―――それはまさしく、生物そのもの、で。
けれど。
粘膜に覆われた肉塊のその様は、あまりにも。
「これがその結末だ。醜悪、…では片付けられまい」
人が造り出した自然の摂理に逆らった、怪物。
「短期間、様々な薬物の投与、実験を繰り返した反動だというが…、こんな姿だ。死んでしまったほうがよほど救われただろうな」
内臓という内臓がせりあがり、皮膚は脊髄から左右に裂け、そして筋肉の収縮で自らの体の内外を反転させる。
内膜は外に曝され、視覚も味覚も閉じられたまま、ただ聴覚と嗅覚、感覚だけは生きている。
寝台のようなものに置かれたそれは既に放置されているのか、ひとつの器具も、コード一本すら繋がっていなかった。
固く冷たいステンレスの寝台に、ただぼとりと落とされた巨大な肉塊。
「当時、見習い研究員だった若造達のなかにはこれを見てショック死した者もいるそうだ。大半は精神科に直行したらしいがね」
桐生が嗤う。
これを目の当たりにして平然としていられるくらいだ。
既に狂っているのか。
「私もこれを直に見たが、まさかこれが、人に戻るとはな…」
ぐつり、と桐生の指が倫子の首にめり込んだ。
爪半分が埋まる程、薄い肉に差し込まれたそこから黒々としたら血が滲み出す。
「…奥田、と言ったか。当時、若くしてメイン研究員の一員だった彼が言っていたよ」
―――生きているのか、果たしてその意義すら見いだせない。
生かしてよかったのかすら、わからない。