AEVE ENDING
『見れば、わかるでしょう。彼女は生きている。異変を期したとは言え、これは人の形だ』
カルテを手に、彼はそう口にした。
「…まさか、と思ったよ。まさかこれを試験体に、まだ研究を続ける気なのか、とね」
既に役に立たないモルモット。
肉塊になった彼女のどこを切開する?
心臓の位置も肝臓の位置も脳味噌の位置すらどこに移動してしまったかすら解らないような、人類とは全く違う生き物へと化したこれに。
「奥田という男は面白い男だった。その研究に向ける熱心さは、私のドールに対する熱情と近いものがあったよ」
くつりと微笑いながら、相変わらず桐生は倫子を離そうとしない。
黙って跪く倫子に、満足げに息を吐いて。
『倫子が少しでも幸せになれるなら、俺はなんだってしますよ』
桐生の言葉を耳に、それはただの自惚れだと、雲雀は考えていた。
『倫子、おいで』
―――彼は贖罪を。
自らの罪の尻拭いをしていただけのこと。
『俺はね、雲雀くん…』
「―――研究に対する熱心さじゃ、ない」
なにも語らない雲雀の代わりにそう口にしたのは、桐生の背後に控えていた鐘鬼だった。
「…なにかね?」
独り語りを邪魔された故か、桐生は低く唸り返す。
それを気に止めた様子もなく、鐘鬼は倫子に歩み寄った。
「その奥田という男は、自らの研究心を満たすためだけに、実験を続けたんじゃない」
だらりと首から血を流す倫子の脇に腕を通し、ゆっくりと桐生から倫子を引き離す。
ずるりと抱き抱えられた倫子は、やはり鐘鬼の成すがまま。
「―――罪を、償いたかっただけだ」
だからこそ、あの肉塊を人に戻した。
自らが犯した罪を裁くにはあまりにも、時が経ちすぎていたけれど。
『彼女はまだ、核を有したままですからね。…可能性はあります』
それは、建前でしかない。
―――可能性。
アダムに成り得る可能性か、或いは彼女がヒトに戻れる可能性か。
奥田たきおという男が、望んだものは。