AEVE ENDING
「貴方が僕をそういった眼で見ていたのは知っていたけれど」
くつ、と囁く雲雀の微笑に、桐生は深く眉根を寄せた。
絶対的な力を以てして、他者の血で餓えを埋める神の声に。
「純粋で無垢なだけの人形には、なりたくもない」
だから死になよ。
その顔、昔から気に喰わなかったから。
宣戦布告。
「苦しんで死ね」
暗闇のなか、雲雀が脚を踏み出す。
足音もなく狙うのは、桐生の心臓。
幸い、鐘鬼は阻もうとはしないだろう。
先程のやり取りを見れば、従順な主従関係ではない。
ガシャンッ。
「…、」
しかし雲雀の攻撃は、桐生には届かなかった。
桐生の心臓へと繰り出した腕を掴み上げたのは。
「…橘」
虚ろな眼の、「人形」。
背後に桐生を守り、表情もなく雲雀を見上げている。
(…全く、いつもいつも)
厄介事ばかり連れてくるね、君は。
腕を掴んだまま微動だにしない倫子に、雲雀は知らず溜め息を吐く。
(連れ帰ったら、加減なしに殴ってやろう)
物騒なことを考えながら、ズ、と音を立てて倫子から腕を外した。
桐生を殺るつもりで相当な力を込めた為、身体で拳を止めた倫子の胴と腕の内側には深い青痣が残っている。
(……傷が絶えない体だね)
生傷が絶えないのは明らかに理不尽な雲雀のための、雲雀だからこその、雲雀ゆえの暴力行為が原因なのだが、意識を桐生に支配されている倫子に抗議できるわけもない。
雲雀は数歩下がり、再び倫子と桐生の動向を探る。
やはり鐘鬼はなに喰わぬ顔のまま腕を組み、壁に凭れて見学に徹していた。
経過を見守っているのか、或いはなにかしらの機会を見計らっているのか。
「…、」
反して桐生は、苛立しげに唇を歪めて見せた。
椅子に腰掛けたまま、目の前に立つ美しい少年を睨み付ける。
「―――ふん、随分と甘くなったな、君は。もし今、私の前に飛び出したのが橘倫子ではなくただの人形なら、躊躇なく人形ごと私の心臓を貫いていただろう」
ぎり、と指に力を籠める。
それに触発されたように、倫子の腕が自身の青痣にのびた。