AEVE ENDING
「…だろうね」
憎々しげに吐き出された桐生の言葉に涼やかに返しながら、雲雀は倫子を見る。
しかしその視線をものともせず、倫子は青痣を撫でるのをやめない。
その動作は桐生の意思が起因してのものなのか、或いは微かに残された意思からくるものなのか。
―――以前、奥田に言われて試した槐櫑の術。
『なにかに飲み込まれてくような、感じ』
『水に漬かってる時みたいに、全身に水分が浸透していって体が重くて動かせない』
意識が、侵食されてゆく。
『きもちわるい…』
顔面蒼白で、そう吐き出した倫子の脱力した肢体。
ほんの数秒であれだ。
意識を無理に抑えつけられ、槐櫑にされている今の状態を考えれば…。
(見た目は普段と変わりなくても、実際には相当な負荷が掛かってる筈だ)
もとよりあれは、人間の体。
人間の身でありながら、アダムの核を有するのだ。
標準の肉体より、ずっと脆い。
どこかひとつでも綻んでしまえば、そこから容易く全てほどけてしまう。
『…雲雀だから信用したのに、もし他の奴にこんなことされたら死ぬ。確実に死ぬ』
馬鹿正直な人間は、損を見る。
「…煩くないうちに、戻そうか」
それは乞い、であったのか。
どちらにせよ、結果は変わらないのだから。
「…槐櫑を解く気か」
雲雀の変化に、桐生はくつりと笑みを返した。
椅子に腰掛けたまま、自らは指一本すら動かさない。
操人形を使っての、彼独自の殺戮方法。
「…私の駒は、彼女だけじゃないと承知かね?」
ずるり、と桐生の背後から現れた女体のマリオネットが三体。
―――いや、人形のように加工された人間、である。
「…、」
それを認めた雲雀が、悪趣味だと唇を歪めた。
「木偶が何体出てこようが、関係ない」
三体の見知らぬ女、操られている倫子。
彼女達を前にして、やはりその眼は揺るがない。
「…全く、君が言うと冗談に聞こえないから性質(たち)が悪い」
「…冗談じゃないもの」
交わしあう言葉は腹の探り合い。
互いに互いを血祭りに上げることだけを求めて、その機会を狙っている。