AEVE ENDING
(―――修羅が最も輝くのは、獲物を捕らえた瞬間…)
桐生は、嗤う。
目の前に涼やかな表情を張り付けた少年の麗しさにやはり、胸に燻る劣情を蘇らせずにはいられない。
あの美しい肢体を蟲ピンに磔け、息を絶やさず、一番綺麗な状態で時を止めて、そして餌を与え飼い慣らし、コレクションにしてしまいたい、と。
醜い欲求を、高潔な神にぶつけるからこそ、昂ってゆく劣悪な業。
―――いつだったか、まだ幼い彼を修羅と例えた男が付け足した言葉を。
『彼は孤高の獸だ。気高く、なにものの侵害も赦さず、ただ独りで世界を喰い尽くしてゆく』
神に愛でられた、美しい獸。
―――あぁ、愉しい。
「…、」
湖面のような眼が揺れた。
前方斜め上から飛び掛かってきた一体のマリオネットを素早く右脚で蹴り上げ、そのまま左脚を軸に回転、左から腕を狙ってきていた更にもう一体のマリオネットを間近に引き込み、そのまま勢いに任せて真横へと投げ飛ばす。
ガシャリグシャリと、生身の人間というわりには機械的な音を立てて、彼女達は床壁天井に這いつくばった。
―――それこそ破壊的な能力を秘めているくせに、敵を殺す時は必ず体術を使う男。
(…壊す感触を、直に感じたいのか)
雲雀がマリオネットと遊ぶ様子を眺めながら、鐘鬼はそんなことを思っていた。
桐生は相変わらず雲雀に釘付けのまま、動かない。
雲雀と対等に言葉を交わすわりに、この男も結局は雲雀に魅せられたひとりだった。
無機質を愛でる、けれど魂を持った至上の美に魅せられた、憐れな男。
『―――冷たく血を流さない体を、どう愛せばいい?』
以前、戯れに問うたそれに。
『冷たく血を流さないということは、美しいと同義だ。私がなにをしても彼女達はその美しい顔を歪めはしないし、罵倒を口にすることもない、ただ無機質なまま、美しいまま変わることがない。…だからこそ、崇高すべき美であるのだよ』
桐生は所詮ただの変態なのだと、呆れたのはこの時だ。
その嗜好故に雲雀を求め、人形を飾り、そして恍惚のうちに自らが踏み外した道に気付かない。
人類に対する憎しみからこちら側に付いた自分とは、あまりに見解が違いすぎた。