AEVE ENDING
『あんたはまだ、大丈夫』
―――だからこそ、渡したくないと思ってしまった。
修羅の無能を口にすれば、その眼は酷く不愉快げに釣り上げられている。
―――底冷えする、足元から崩れ落ちてしまうような、冷笑。
神は、言うね、と咥内で囁いて。
「生憎だけど、橘は君のものにはならない」
それは、身勝手な独占欲か。
「…だろうな」
笑みが漏れたのは、安堵故、か。
この男には、ただひたすら、彼女に囲まれて一生を終えるのが似合う。
「桐生はどうした?」
「さあね。消えたよ」
····
恐らくは例の部屋へと潜ったのだろう。
もとより、たかが三体のマリオネットで雲雀を食い止められるとは桐生も考えていない。
「追わないのか?」
「耄碌の男を追うより、君が相手のほうが愉しめる」
「後悔するが…」
「君が、ね」
微笑を交わすのはただ、互いに血に飢えているからか。
或いは足元に転がる惨めな女を、醜態を曝してまで欲しているからか。
『あんたにはまだ、余白があるよ』
屈託なく吐き出されたその言葉はあまりにも希望に満ち溢れ、そして間違いだらけの戯言だった。
『だから、もう』
余白は、汚してこそ価値がある。