AEVE ENDING
「…ってオイ!橘じゃん!なにしてんだ、こんなとこで!」
憐れにも漂白された倫子の姿に狼狽している真醍に、雲雀は呆れる。
「…君、橘を助けに来たんでしょう?」
「…え?そうなの?」
「じゃあ、なにしにきたの」
真醍の能天気ぶりに苛々が募り、口角がひきつる。
そんな雲雀を前にしても、真醍はのんびりと口を開いた。
「保健医が、ヒバリン姫が囚われの身になっちゃったから助けてあげてって」
真醍の言葉に、雲雀の表情が一層冷ややかに変化する。
(…帰ったら、産まれてきたことを後悔させてやろう)
雲雀がそんな決意をした同時刻、西部箱舟にて冷水を浴びせられたような悪寒を感じた変態がひとりいたとかいなかったとか。
「橘は大丈夫なんか」
「心配は要らないよ。今はちょっと操られてるけど」
「は?」
「目が覚めたら気を付けて」
「え、ちょ、」
「丁度良かったよ。猿にはあれの相手をしてもらう」
そう言って雲雀が視線を投げた先には、白装束の鐘鬼。
必然的に、真醍と鐘鬼の間で火花が散る。
「橘を拐った張本人だ」
目の前から連れ去られた屈辱を、忘れたわけではないが。
「…僕は、橘の槐櫑を解く」
今はまだ、優先することがある。
足元で未だ昏昏と眠る倫子を見下ろし、雲雀は部屋の出口へと向かった。
真醍が開けた穴ではなく、正真正銘の正当な扉から。
そんな雲雀の背中に、真醍が叫ぶ。
「橘はどうすんだ!」
「さぁね。起きたら殴って気絶でもさせとけば」
「女は殴れねぇよ」
「…君、橘と喧嘩する時はいつも本気で殴ってたじゃない」
「バレた?」
真醍が笑う。
その笑みは、どこか倫子のそれと似通うものがある。
『―――足枷を断つ仲間がいなければ、お前は桐生には勝てない』
仲間と言うならば、信用しよう。
「任せるよ」
「ガッテンだ!」
雲雀の「信頼」に、真醍はあけっぴろげに歯を見せて応えた。