AEVE ENDING







―――あの雲雀からよもや「任せる」などという単語が出てくるとは。

これは気を張らなくては、と真醍は肩をいからせて鐘鬼と面と向かって立った。


「初めまして、だな。綺麗なネーチャン」

先ずは律義に挨拶から。
とは言っても、刀はしっかりと構えたまま。

「ネーチャン…?」

案の定、真醍の言葉を理解できない鐘鬼が片言で繰り返す。
真醍はその薄い唇から発せられた声質に目を丸くした。

「アレ、男じゃん。つっまんねーの」

ひゅん、と音を立てて緩やかに刀が鈍光る。
その鋭い切っ先を見て、鐘鬼は首を傾げた。

「カタナ、か…?それほど完全に近い状態で保たれたものがあったのだな」

素直な感嘆が漏れる。
それに気を良くした真醍が、にぃまりと口角を歪めた。

「だろ?こんだけの状態を保つのにも、結構な手間暇いるんだぜ。なんせふりぃもんだかんな」

すらりと抜かれた刀身を、目の前に掲げる。
薄く弱い陽光を受けたそれは、一切の影を振り払うように反射し、一片の翳りすら見当たらない。

鍾鬼はその無機質な豪傑に、感嘆を洩らす。

桐生のピグマリオニズムは理解できないが、「これ」に関しては共感できた。


「古き遺産を大切にするのは良いことだ」
「フハッ、話が合いそうだな」
「…こんな状況でなければ、な」


―――あぁ、その通りだ。



ギ、ィン…。

金属が擦れ合う音にぞくりと肌が粟立つ。

限界点まで高めた集中力でぶつかりあう、殺戮の螺旋。

「…やるじゃねーかよ、細腕」

日本刀を振り回しながら、真醍が軽口を叩く。

「…貴様もな」

穢れない刀に鼻が削がれる寸前でそれを避けながら、鐘鬼は左脚を真上に跳ね上げる。
それをすぐに片腕で薙いだ真醍が、間髪を入れずに刀を振り返した。

狙うのは、胴と頭の繋ぎ目。
振り上げた片足を未だ地に着けられないでいる鐘鬼に避ける術はない―――。



パァンッ…。




「…っ、うぉっ、づ」

奪った、と思ったのも束の間。

刀と鐘鬼の首の間で、妙な爆発が起きた。
鉄の壁に切り付けたように勢いよく弾かれた刀が弧を描き、爆風に靡く。

しゅうしゅうと爆発した空気が熱い。

見れば、鐘鬼もその爆発にやられ火傷を負ったのか、首筋が広範囲に渡って赤くなっていた。





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