AEVE ENDING
「あっ…ぶねぇええ!」
眼球寸前で弾けた電流を避けたことに、思わず安堵する。
「オイこらテメー、俺ぁつい先日パパになったばっかなんだからよぉ。ちったぁ加減しろやオラァアアア」
命を張った闘いの最中、無理な話である。
「眼帯を填めた父親というのも様になると思うが」
「え、マジで?」
「…冗談だ」
ギギ、ィン…!
無駄口を叩きながらもしかし、互いに攻撃の手は休めない。
刀先を避けられれば顎を使い頬を殴る。
殴られるがしかしすぐさま体勢を整え、開いた脇腹に蹴りを入れる。
息つく暇もない攻防に空気が張り詰めたまま静止していた。
巨大な力を以てして、その波動が蔓延する空気に。
(…ドクン)
目覚める者が、在る。
(ドクン、ドクン)
「…っ、」
軽やかに室内を駆けていた鐘鬼の脚が揺らぐ。
床に滑らせたのかと真醍が追い討ちを掛けようと身を翻すが、鐘鬼の視線は別の方へと向いていた。
「…余所見してっと、命(タマァ)落とすぞ!」
好機を逃すか、と踏み込んだ真醍の刀が、ぴたりと止まった。
―――真醍と鐘鬼の間。
ゆるりと伸びた影に、ふたりの目が大きく見開かれた。
ズルリ、と刀を直に握る小さな手から血が滴っている。
ポタリと床に赤い楕円が産まれて、それは徐々にその範囲を広げていく。
「タチバ、ナ…」
ふたりに挟まれた彼女が、その虚ろな目を真醍に向けた。
先程、雲雀が纏わせた布のお陰で脆肌は覆われているが、しかし隙間から覗く肌に這う縫合の痕が生々しい。
目覚めた倫子はやはり、無表情だった。
「お前、どうし、」
絶句する。
その虚ろな、なにも映さない眼は。
『橘は今、操られてる』
真醍が知る橘倫子では、ない。
驚愕する真醍を前に、倫子の唇が歪んだ。