AEVE ENDING
桐生の部屋をあとに、螺旋階段を登った先は、東部生徒達が憩う、三階に位置する巨大なテラスへと繋がっている。
桐生を追って館内を歩いたところ、生徒数人を見掛けたがこれといっておかしな点はなかった。
(…てっきり、在籍する生徒全員を操っているものだと思ってたけど)
それは膨大な能力と鋼の精神力を必要とするが、彼にはそれが可能だろう。
―――人の傀櫑。
恐らく箱舟連盟にも報告してはいまい。
幾田桐生。
生粋のピグマリオニズム(人形愛)と謳われた男。
(…そんな男がまさか、意識のない生身の肉体に魅せられるとはね)
人形、それはつまり、人の形をした造り物であるわけだから解らなくもないのだが。
(そもそもそれに巻き込まれるなんて、)
「…」
考えて、空虚な目を思い出す。
意識のない、自我を抑えつけられた状態の倫子は、克明に無を写し出していた。
『雲雀以外に操られるなんて、耐えられない』
甘ったれたことを、と。
それでも早く開放してやろうと無意識にでも歩調を早めている自分に、彼女を嗤う資格はなかった。
…カツリ。
オープンテラスには、多くの生徒達がごった返していた。
既に隠すことを止めた気配で察知していたのだろう。
二十を超える全員が雲雀を見やり立ち上がると、神妙に頭を下げて挨拶する。
異様ではあるが、見慣れた光景だった。
東部であっても西部であっても、雲雀が位置する場所は、彼らより高みにあるのだ。
その洗練された能力を崇拝し、その麗しい容姿に心奪われて、その唯我独尊の自我に焦がれる。
―――考えてみれば、マゾヒストばかり。
『死ね、クソスズメ』
冒涜する言葉を吐いたのは、彼女が初めてだったのだと、今更。
(畏れながら立ち向かって、感情のままに鳴いて泣いて喚いて、)
―――笑って。
既に自分に浸透している声も仕種も表情も、なにもかも、初めてのものだったということに。
(…馬鹿だな)
目の前に群がる虫螻ばかりに辟易して、結局は、狭い世界を温室として生きていたのだ。
(へつらうばかりの、家畜達の上で)
歪んだ世界であっても、真っ直ぐ、生きてゆく自信はあるけれど。