AEVE ENDING
群れに巻き込まれないよう一定の距離を保っている同期、武藤に目をやる。
「真醍も奥田に呼ばれたの?」
「まだい?…あ、あの金猿ですか?ソデスヨ」
問えばこくりと大仰に頷く。
東部在籍のアダム。現在は雲雀同様、西部でのセクションに参加中である武藤は、雲雀と群れを見比べながら首を傾げた。
「どうします、コレ?雲雀さんがやりますか?」
判断しかねているのはそこらしい。
巻き込まれている雲雀の許可なしにこの遊戯を止めて良いものか否か、図りかねていたのか。
思案する時の彼の癖らしい、眉間に皺を寄せ、唇を尖らせている。
武藤の問い掛けに暫し思案した雲雀は。
「…任せるよ」
言うとすぐさまするりと右に左にと揺れていた人の群れから抜け出した。
それこそ隙間なく雲雀を取り囲んでいた筈の肉壁から、なんの苦労もなく。
まるで自然と抜け道が作られたかのように、雲雀は人と人の間に作られる僅かな隙間を道筋に出てきたのだ。
「ガッテン承知」
武藤はそれに感心しながらも返事を返す。
頼む、ではなくただ任せると口にした雲雀に、やはり彼は上に立つ者なのだと実感する。
武藤の場合、それは信仰心からの言葉ではなく、単なる皮肉に近いが。
―――それでも、他人に自らが立つ場を預けるなんて、以前の修羅じゃ有り得ない話だ。
(…どっちにせよ、朝比奈は俺で良し)
こんな巨大で凶暴な器を相手にしようものなら、きっと朝比奈はボロボロになるだろう。
それだけは、許容出来ない。
そんな甘ったれたことを考えながら、武藤は消えた雲雀に尚も群れようとする肉塊共にメンチを切ったのだった。