AEVE ENDING







―――トク…。

トクリ…トクリ…。


精神を尖らせれば、すぐさま耳につく規則正しい鼓動音。

小さな心臓の呼吸音はことのほかゆっくりと、繰り返し繰り返し脈打っては、今は操り傀櫑となった肉体を動かす為に機能を維持している。

(西に向かってる。…聖堂か)

気配を探れば、今、自分が歩いている位置の真上を闊歩しているらしい。
澱みなく進む歩調に、やはり操られているのだと。

桐生の気配は巧妙に隠されているのか、欠片すら感じられない。

―――白濁の片目。




『…雲雀』

不意に。

歪みきった、あまりにも無機質な眼が蘇る。
ぞろりとした、冷たさを孕む色に。

(らしくなく、)

らしくない、と。

冷たいあの眼が自分に向けられたことがまさかあるとは、少しばかり、そう、本当に少しばかり。


(堪えた、なんて、まさか)

そよぐ風が柔らかに、普段よりずっと、穏やかに吹いているのに。

産まれた時よりずっと、揺るがなかった胸に、冷たい風が吹き抜けてゆく。


(馬鹿みたいだ、こんなの…)

望むものが、こんなにも明確に、鮮明であるのに。


―――僕は莫迦、だ。





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