AEVE ENDING
―――視界がゆらゆらと定まらないのは何故だろうか。
先程、やっと意識が、意識だけが、戻ったというのに。
(指一本動かねーや。…脳味噌だけ生きてるみたい)
気持ち悪い。
体だけ―――張り巡らされた精神だけが石になってしまったかのように、脳が指示する命令を、肉体が完全に無視をする。
石膏に埋もれてしまったかのように、窮屈だった。
(こんなの、意識がない方がよほどマシだ)
感覚はないが、自らの体が得体の知れないなにかに勝手に動かされている。
そのことが、酷く頭を痛くさせた。
(…大体、こんな場所、知らねーし)
それなのに、この足は澱みなくどこかへ向かっているのだ。
薄く布を巻いた、姿のまま。
自分の身体ながら、気味が悪い。
(この廊下の作り、昔の建築物だ。潮の匂いもしない。……橋の向こう側?)
東部は都心の中心。
西部は海岸側。
橋を隔てたふたつのエリア。
とは言っても、西部エリアには西部箱舟しか建立していない為、潮の匂いがするのは西部箱舟だけなのだが。
(音がなんにもしない。…西部近隣じゃなくて、郊外?)
一体今、自分はどこにいるのか。
肉体を操られて、そして自身の所在すらはっきりしない。
―――気持ち悪い。
靄が懸かるなにもかもが、薄気味悪くて、おぞましい。
(…なんで、私、こんなとこに、いるの)
意識はあるのに、巧く、考えがまとまらない。
(なんで…)
―――あぁ、今になって、腕が痛み出した。
(感覚が、戻ってきてる…)
意識が戻った頃には既に負っていた腕の傷。
恐らく、体への負担を考えずにアダムの能力を使ったのだろう。