AEVE ENDING
(この体は、全能の力を使うには脆過ぎる…)
畏れていたこと。
ビリ、と神経が千切られてしまったかのように、痛む。
(痛覚だけ戻ってきてる…?)
あの男の仕業か。
白濁の男。
この体はきっと、あの男に操られている。
(クソッタレ。微生物以下のクソ野郎が、)
ズクリと肩からの痛み。
こんな状態で、果たして使い物になるのか。
痛覚は生きたまま、自分の意思とは全く違うところで筋肉を動かされる。
(拷問、だ)
それは確かに、過去であったのに。
胎内から殺される、恐怖。
(神の力に、いつか)
だって、雲雀は。
『喰い殺されるよ、倫子 』
雲雀は、神じゃないのに。
―――ヒバリ。
黒髪が緩やかに、風にそよぐ様を。
操られている筈の胸の奥に、じわりと融ける、熱が。
(会いたい、…)
そうぼんやり考えることすら赦されることではないというのに。
『…橘』
その声が余りにも鮮明、で。
『馬鹿だね、君は』
そうだよ、雲雀。
私は、馬鹿だ。
苦笑を漏らしてしまいたいのに、声すら、出ないまま。
(ただ渇望してる)
ただ静かに、わけも解らず、どこかへ脚を運びながら。
偶然でもいいから、だから。
(…あぁ、でも、雲雀は、私が人形になったと思ってるんだっけ…)
事実、人形なのだが。
だから。
(今、意識が戻ってる間に、せめて)
―――カツン…。
「…、」
ぞ、と、意識を持っていかれそうになった。
目の前に現れた人物に、操られていた意識が息を止める。
行く手にあった階段を上がってきたらしい。
薄く淡い木漏れ日に照らされる深い海のような、髪、が。
そこに現れた人物は、間違いなく。
(ひば、り…)
雲雀もまさかここで出会うとは想定外だったのか、丘真っ暗な眼が、少しだけ見開かれている。
珍しく感情を感じられる表情に、笑いたくなった。
(でも、顔の筋肉ひとつ、震えやしない)
それが、らしくて。