AEVE ENDING
雲雀はただ静かに、あの何者をも威圧する視線で以てこちらを見ていた。
操られている私を、窺い見ているのだろうか。
月が夜の海に落とす白銀のような艶が、この醜い体を見定めている。
(あぁ…、雲雀だ)
今はこの思考すら届かないだろう、と泣きたくなった。
目の前の男に焦がれ過ぎて、重圧を負う心臓が痛む。
「……橘、」
あぁほら、その声すら。
先程まで確かに痛んでいた筈の心臓が停まってしまうかと思った。
ズクリと肉を刺し抜かれるような思いをしたのは、きっと。
(なんで、そん、な、顔…)
焦がれていたのは確かに私であった筈なのに。
心臓が急激に伸縮を始めたように痛み出したのは、確かに私のほうだったのに。
「…、」
―――この男が、今にも、今にも、泣いてしまいそうな顔を、するなんて。
「橘…」
名を呼ぶ声は何故、そんなに痛ましくあるのか。
(だって、ないものねだりをしていたのは)
「…っ、」
今すぐ駆け寄って抱き締めて抱き締められて、その胸で泣きたい、と。
叶わぬ衝動に、また胸が震えた。
(…雲雀、)
泣きたい。
そんな泣きそうな顔して、近寄ることすら躊躇するあんたの胸で、泣きたい。
「…、」
けれど今、その名をこの舌は紡ごうとしない。
駆け寄りたいのに、今の私の脚はぴくりとも動かない。
手を伸ばして、その艶やかな髪に指を通したいのに、私の指は拳を作ったまま開こうとしない。
(―――雲雀)
届けたいのに、届かな、い。
(―――、…)
息が、停まってしまう。
気付けば目の前に立っていた雲雀の視線と、私の視線が交差した。
(…私は見ているつもりでも、表面にそれは現れていないだろう―――つまり雲雀は、私じゃなくて人形と対峙してる)
それなのに、雲雀はどこか切なげな色を食み、倫子を覗き込んでいた。