AEVE ENDING
「……、」
ねぇ、なに考えてるのさ。
なんで、そんな顔してるの?
トクリ、トクリと続く心臓がひときわ大袈裟に跳ねたのは、雲雀の手が、かつてないほど優しく、この肌に触れたからだ。
(―――、ひば、)
頬に指が触れたと認知して、すぐ。
「…、」
切なげに細められた目が完全に閉じられた瞬間、この冷たい唇に、ひたりとくちづけられた。
「…っ、」
ほんの一瞬、構える暇もないうちに離れたのに。
(随分と長く、)
交差しあった前髪がさらさらと互いの額を擽る。
別に初めてじゃないし、こんな触れ合うだけのくちづけよりずっと、やらしくて深いものをしたことがある。
―――でも。
(こいつ、私を殺す気だ…)
感触なんて感じない筈の今の私の唇から、すぐさま離れたその薄く綺麗なそれに。
熱が移る間もなく離れたくせに。
至近距離で見つめられた眼の奥に、無機質な私を映して、痛みに堪えるように眉を寄せる、その仕種に。
(やだ、もう…)
動かない手が、動かない唇が、紡げない名が、恨めしい。
―――苦しい。
今すぐその髪に指を通して、掴み寄せて、もう一度唇を寄せて、離れて、なじって、それから、もう一度。
(ひばり、ひばり、…ひばり)
泣きたいのに泣かせてくれないなんて、なんて酷い躯だろう。
(こんなに渇望しているのに、)
その離れてしまった華奢な体を、引き寄せられない。
(―――苦しい)
「…橘、聞こえてるの?」
ふらりと目眩がしたのは、きっとこの男の眼が。
「すぐ、戻すよ」
だから、もう少し我慢していて。
ふるりと細められて、私を安心させる。
(こんな時に)
照れることもありがとうを口にすることも、叶わないなんて。
(…ねぇ、雲雀)
―――私、あんたが。
ブツリ、と意識が飲まれたのは、倫子が涙を流しそうになった直前だった。
水の中に再び、深く深く吸い込まれる。
(…ひば、)
あぁ、焦がれた顔が、見えなくなる。