AEVE ENDING
「…馬鹿だね」
無駄なことばかりして。
その電流を纏った腕を直接掴み、体を後方に傾ける。
上向いた顎を包み、頬を握り潰し体重をかければ、その華奢な体が背中から床に倒れ込んだ。
倫子の息が跳ねた瞬間、雲雀はその腹に跨がり首に指を回して器官を塞ぐ。
酸素を失ったことに頬をひきつらせはするが、やはり表情は変わらない。
掴み上げた片腕は電流を四散させながらピクピクと痙攣し、その腕の皮膚は完全に焼き爛れ、既に死んだ皮が硬くなり始めていた。
―――自然、不愉快だと眉が寄る。
「あまり、勝手をしない方がいい」
ぐ、と倫子の首を容赦なく絞めながら、語りかける相手はそれではなく。
「傷の治りが遅いと、僕が遊べないからね」
この痛々しい体に傷を付けていいのは。
「…、」
呼吸管を塞いでいる為、倫子の体からずるりと力が抜けていった。
表情を顕にしない様は、やはり螺が切れた人形のように。
「…ふぅん」
しかし活動を停止するかと思えば、一度は力が抜けて床に落ちた腕が再びカクリ、カクリ、と動き出す。
不意に上げられた腕がこちらの頬に伸び、それが触れる前に阻もうとした。
阻もうとして、気付く。
―――無意識に、は、と息を飲んだ。
色を喪くしていた、確かに無機質な、眼が。
「…ひ、ば、」
―――囁く。
胸を掻く、疼く痛みを伴うそれは。
ジュ、…ッ。
「…、」
一瞬の隙を突かれ、焼かれた肌から肉の焦げる臭いがする。
久しく感じたことのない痛みに眉ひとつ動かさず眼下を見れば、瞬時、垣間見せた倫子自身の意識は既に深淵の底へと落ちていた。
無表情に戻った倫子の太腿がひくりと痙攣し、ピ、と音を立てて施術の痕がひとつ裂ける。
能力を解放した対価とでもいうように、赤黒い傷から、づぅ、と血が垂れた。
(下衆が、)
赤い血脈を前に、白濁とした桐生の眼が脳裏を掠める。
躊躇いがちに、泣きそうになりながら名を呼んだ彼女は、もういない。