AEVE ENDING







(―――冷たい…)

氷水にでも浸けられているみたいだ。

神経が麻痺して、脳味噌も麻痺して、あぁ、折角、雲雀と会えることができたのに。

(また、真っ暗…)

それでも痛みは感じるから、きっと無謀に能力を開放して雲雀に歯向かってるんだろう。

(…雲雀は、私を殺すのだろうか)

この汚い体をよもやあの男が救うとは思えないけど。
救われたい、と願っても、いけないのに。


(…あんなの、反則だ)

細められた眼も、躊躇いがちに触れた唇も、全部。

(…雲雀、)

このまま殺されてしまうのは惜しい、と。

(―――どうせなら、最期は雲雀に埋め尽くされたまま、逝きたいのに)

望むな、とどこかで叱咤する自分を無視して。

(ひばり…、)

でも、こんな冷たい体じゃ、無理だ。


―――もう会えない。


(雲雀の声も低めの体温も、綺麗な指も髪の毛も、眼も、不器用に優しい手も)

望んでも、手に入らない。

(望むべきじゃない、のに)

この手を伸ばすことすら、躊躇わずにはいられない不徳な私が雲雀の隣に立つことを。

(あんたは許してくれていたんだろうか)

思えば思う程、泣きたくなるほど、愛しいのに。




『―――橘、』

あぁ、幻聴まで聞こえるなんて最悪だ。

『橘…』

でも、幻聴でも最期に聞けるのが雲雀の声なら、それでもいいや。

偽りでも幻想でも、ただひたすら耳に馴染む音に心臓を傾けて死ねるなら、それは本望だ。


(―――例え雲雀が、私という体を殺した生き物でも)

だって、こんなに好きなのに。









『……橘、』

沈下する意識が不意に引き上げられた。

手足の指先を支配していたかじかむような冷たさが徐々に侵食の手を弛めている。
微かな暖かさすら、感じた。


『…橘、』

何度、呼び声がする。
感情の色を含まず、波すら起こさないその透明な声色が間近に聞こえる。

(そんなの、有り得ないのに)

トク、と鳴いたのは、貧弱な心臓の最期の足掻きに過ぎない。

芽吹く息は、既に諦めて。




(…まだだよ)






< 681 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop