AEVE ENDING
『おぉなんと、アダムの力の末恐ろしいことか…』
『役には立つが、しかし諸刃の…』
『我々の手には余る。野放しにすれば、いずれ国を乗っ取られるぞ』
『早々に手を打たなければ…』
『アダムはこの先、その数を増やしてゆくだろう』
『少数である内に、打開策を』
(アダムを)
(アダムを)
(―――アダムを…)
「…箱舟制度」
それは、我々を収める檻だ。
「君達にしてみれば箱舟制度は妥当であり当然のものだっただろうが…、我々には人類による人類の為の、…残酷な迫害でしかなかった」
その達しは、唐突に。
アダムである者はすぐさま政府に名乗り出て、国立の施設に収容されるように、と。
「勿論、抗う者は多くいたよ。なんの力も持たない人類より、我々アダムのほうがよほど優位に立っていると信じて疑わなかったからだ」
抗い。
―――それは、当然の権利であった筈なのに。
「…人質」
雲雀が、ぽつりと吐き出した。
血塗られた歴史は、今はもう、何者にも伝わらない。
「…抗った者は皆、身内を盾に取られたよ。それこそ、見せしめに目の前で親や子を殺された者もいた」
最期を迎えた愛しき人の悲鳴は醜く、そして憐れだった。
「国に反旗を翻す反乱分子として、我々は迫害を受け続けた。国の為に、政府の為に、家族の為に、と」
神に与えられた能力を駆使し、この深く汚れ、死にかけた星を洗浄することだけに生涯を傾けてきたのに。
「政府は、裏切ったのだ」
その醜い罪の尻拭いを、高潔なる我々に押し付けて。
―――罪を受けるべきは、誰か。
(…だからこそ)
「君は復讐の糧だった」
その脆く傅くべき体は、この身のうちに宿る復讐を昇華すべき犠牲に過ぎない。
真摯に白濁を受けて、倫子が躊躇いに震える。
「…わ、たし?」
罪深い人類への、密やかなる復讐を。
「人類である君を、ただひたすらに痛め付け、復讐を植え付け、そして、先になにが産まれるか」
それを、見てみたかったのだ。
「君は、私にとってただの人形ではなかった」
かつて我々アダムに苦汁を飲ませた政府を利用して、遠回しに、遠回しに、復讐劇の役者選びを。
『―――君は、選ばれたんだ』