AEVE ENDING






「私の復讐を成し遂げる為の、醜く憐れな、肉人形」

その歪んだ体は、腐敗しきった国の落とし子だ。



「―――…な、に」

なにを言っているのかわからない、と。
そのわななく唇は真実を否定する。


「ヒトである君を、高潔たるアダムに造り変えることは、国に新たな脅威を産み出すことになる」

人類規定内である平均的な君が、神の恩恵を受けた新人類アダムになりえたこの実験の成功は、アダムを危険分子とする国の閣僚達には恐ろしい先見として報告されたであろう。


「君は私の、復讐の道具でしかなかった」

··
ヒトである君を。


―――計画は順調だった。

ヒトに憎悪を抱くアダムを集い形成した闇組織も、アダム帝国を成す為の兵器も、全て揃っていたのに。



『例のサンプル体は、修羅の力を収めることに成功した』

それでも、誤算があったのだ。


「…まさか君が、正気を保つとはね…」

その強い眼差しをまさか、今でも見ることになるなんて。



『酷い…』

初めて研究所へ客を招いた時、賓客であった彼は開口一番にそう口にした。

彼の息子の身代わり―――少なくとも彼はそう思っていた―――少女は、薄い硝子越しにただ浅い息を繰り返している。

家具も窓も通気孔すらない、なにもない部屋。
六方が真白の壁のそれは、研究者達から迫害の部屋と呼ばれていた。

その中央で仰向けになっている少女の体には、幾度となく繰り返された施術の痕が生々しく残っている。

先程、アダムの遺伝子が組み込まれた細胞を心臓に埋め込む実験を終えたばかり。
半ば坊主に近いその姿は、しかしところどころの膨らみにより辛うじて女であると判別できる。


『酷いとは…、無責任な言葉ですな』

口許を押さえ、全裸の少女を憐れむように見る様は偽善のなにものでもない。


『…貴方のせいでしょう、』

さして愛してもいない息子を守る為に、家の威厳を守りたいがために、息子を政府に差し出す羽目になった妻の癇癪に耐えられなかった故に、まだ幼い彼女を、悪魔に差し出した男。





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