AEVE ENDING





「…あれ、」

少しして、楽しそうに部屋を見て回っていた倫子が立ち止まって不思議そうに首を捻った。

「ねぇ」

雲雀に問い掛けてみる。
返事はない。期待してないけど。


「…ベッド、ひとつしかないよ」

気付いてみればおかしい。
二人にあてがわれたにしては余りにもだだっ広いワンフロアだが、明らかにこれは一人部屋仕様だ。
倫子は白い空間を眺めながら、ベッドで瞑想している雲雀に近付いた。


「ねぇって」

もう一度声を掛けてみるが、返事はない。
しかし代わりに閉じられていた瞼は上げられ、まん丸の眼球が倫子を澱みなく映し出した。

「…そこのドア」

ぽつりと吐き出された雲雀の言葉に、倫子は素直に「そこのドア」を振り向いた。

言われて初めて、そこに扉があったことに気付く。
大理石の壁とは材質が違う、しかしそれに溶けこむように存在を隠す細長いドア。
教えられなければ、気付かなかったかもしれない。

(まるで隠し扉だ…)

嫌な予感がする。



「ここ?」

もう一度振り向いて確認してみるが、瞼を再び閉じてしまった雲雀から返事はなかった。

「…ここ、ね」

会話の成り立たないルームメイトにうんざりしながらも、倫子はそのドアに手を伸ばした。
丁度、百八十度広がる湾曲した窓の左側の終点にあたる「そこ」。

まるで物置の扉のように、存在感のない扉。


(…まさかマジで物置とか?)

邪推を胸に、恐る恐る小さなノブを引くと、軽い扉は簡単に開いた。


「…あ」

一応、安堵の一声。
扉は物置でも、中は至って普通の部屋だった。

今まで使っていた宿舎の部屋と相違ない、やはり白で統一された、視界が埋もれそうな部屋。調度品は長方形のベッドひとつ。

たいした差別だ。
いや、区別だろうか。
まぁ、ないよりはマシだろう。

四面のうち二面の壁全体―――右半分と正面の壁が、完全にガラス張りになっていることを除けば、普通に生活できる。

それにこちらの部屋からもバルコニーに出れるらしい。

(プライバシーもなにもあったもんじゃねーな)

この造りに呆れる。
こんな八畳程度の細長い部屋の二面ガラス張り、遮蔽物もなにもない部屋で、どうやって着替えをしろというのか。




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