AEVE ENDING
「ねぇ、耳元で嫌な声出さないでよ」
「うっせ、ちょ、…っうが、」
すたんと真上へと跳躍して、足元を狙ってきた人形を避ける。
内臓を急激に揺らす浮遊感に、倫子は口を抑えた。
「……ひ、ま、ちょ、うご、」
「なに?」
「は、吐きそ、…」
ガシャァーン。
吐きそう、と、この上なく素直に白状した倫子の体が宙を舞う。
放物線など描かない。
その華奢な体は宙に浮いた状態で、斜め三十五度に向かい直角に線を引いた。
先程からの闘いにより脆くなった壁を簡単に突き破り、倫子は外へと投げ出されることになる。
轟々と立ち込める砂煙のなか、雲雀の突然の行動に、桐生すら目を丸くした。
―――すたん。
軽い足音を立てて床に再び足を付けた雲雀は、倫子が消えた先を見る。
「汚い。ごめんね、橘、ドールに驚いて思わず手を離しちゃった」
「……うそつけぇえええ!最初に本音出てんじゃねぇかよ!」
地べたに平伏していた倫子が、がばりと震える腕で上体を起こす。
腹立たしさからくる、本能に忠実なツッコミが冴え渡っていた。
「…っオマ、テメ、……!あのさぁ!」
怒りのあまり言葉が繋がらないらしい。
白眼になって怒り狂いながら地団駄を踏む。
「良かった、生きてて。人形にびっくりしたからって君から手を離すなんてどうかしてた。どうせならドールに叩きつけてやれば良かったのにね」
言語道断である。
「…お前、頼むから死ねよ」
「誰に向かってそんなクチきいてるの?」
ガシャリ。
会話しながら、向かってきたドールの顔面を雲雀は容赦なく鷲掴む。
人より細く小さな顔は掴みやすく、歯もないから容易く顔面だけで拘束できるのだ。
―――顔を通じて、首の関節まで一直線に固定した。
掴んだ頭を上空に抱え上げれば、キィキィと鳴くドールの爪は、雲雀には届かない。
「…去ね」
ガシャリ、と合成樹皮の腹を蹴り飛ばした。
腕を掴んだまま勢いよく蹴れば、当然、関節の球体が外れ腕がひきちぎれる。
キリキリと悲鳴の如く鳴くそれに、雲雀は不愉快だと言わんばかりに地べたを這った能面のような顔を踏み潰した。