AEVE ENDING
ガシャン…ッ。
倫子が桐生の右頬に思いきり右ストレートを入れる―――。
ぐらりと傾いた桐生に、今にも雲雀を串刺しにしようとしていたマリオネットまでバランスを崩して倒れた。
高い能力値が充満する重圧のなか、重い体を引きずり、倫子は桐生の背中を押さえつけ、床に押し倒した。
「ぐっ、」
傀儡に集中していたせいか、近付く倫子の気配に全く反応することなく、その渾身の一撃を受けた桐生は倒れこそしなかったものの、それなりのダメージを受けたらしい。
顔面を強打した桐生は、マリオネットを操るところではないのか、見れば五体のマリオネットは既に雲雀に原形なく破壊されていた。
(精神系アダムで傀儡を得意とする…。真醍や雲雀みたいなパワータイプじゃない)
ならば、その生身の体は非力なのではないかとの読みは正しかったらしい。
桐生が体勢を整える前にと、節々が痛む体に鞭打ってその背中に乗り上げ顎下に手を回し、背骨を反らせる。
ギシリ、と年老いた体が鳴いた。
「フ…、わた、を、殺す…か」
顎を反らされているせいで途切れ途切れにしか聞こえないそれに、倫子は神妙な顔つきで眉を寄せた。
「貴様は、わたしを…殺、せはせんよ…。貴様はどうあがいても、修羅の、ま、紛い物だ」
耳障りだ。
倫子は不愉快をそのまま体言するように、ギシリと顎を掴む腕に力を込める。
「…生き物を殺す技術は、あんたに教え込まれた」
だから、私はきっとあんたを殺せる。
耳元で囁けば、息も絶え絶えに桐生が嗤う。
「…その醜い体を、…更に汚す覚悟が、貴様に、あるか」
搾り出すような挑発。
ビリビリと桐生に触れた指先から肉が腐っていくような気がした。
雲雀と違い、アダムとしての能力を抑えてなどいない桐生の体は、それだけで倫子を蝕む毒となる。
「……、」
ぐらり。
この男の狂気に、視界が歪んでいく。