AEVE ENDING
「タチバナァ~ン!」
ドクリ、と心臓が跳ねた。
暢気な大声に顔を上げれば、随分と楽しそうな真醍が教会の入り口から手を振っている。
「真醍…」
無事だと知り、深く安堵した。
その真醍の肩には鍾鬼が担がれている。
微動だにしないその姿に、再び激しく心臓が跳ねた。
まさか。
(―――鍾鬼まで、)
蒼白になったまま動けないでいる倫子の代わりに、雲雀が口を開いた。
「生きてるの?」
―――ドクリ。
真醍はなんのことかと暫し考え、倫子の視線に気付いたらしい。
規則正しく並んだ歯を惜しげもなく見せ、口角を釣り上げた。
「死体だったら担がねぇよ」
その一言に、次こそ安堵した。
掌に蘇る、彼らへの、反逆を。
真醍も鍾鬼も、多少身体は辛そうではあるものの、中身は頗る健康らしい。
鍾鬼は気絶しているだけのようだった。
にかりと笑いながらこちらに近付いてくる真醍に、目頭が熱くなる。
「…まだい、まだい、」
唇が震える。
高温の液体が邪魔して、真醍の顔が良く見えなかった。
「まだい、」
そんな倫子のすぐ前に来ると、真醍はその高い上背を掲げ視線を合わせてくれた。
「…まだい、ごめん」
ぶるりと唇が震えてやっとこさ吐き出した謝罪と共に、その首にしがみつく。
あったかい。
生きている。
硬い金髪が揺れて、濡れた頬を優しく撫でた。
「…アホ」
真醍の呆れたような、苦笑する声が音もなく体に浸透していく。
(生きてて良かった、)
無意識に漏れた。
咥内で巡っただけの、蚊が鳴くようなそれが聞こえたのか、されるがままだった真醍がからからと笑って、乱暴に倫子の頭をかき混ぜた。
腕のなかの小さな温もりが無事で良かったと、真醍も心底から笑って見せる。
―――きっとそれだけが、救い。