AEVE ENDING
「…、」
倫子は自室に戻っていた。
雲雀とパートナーだった頃の部屋ではなく、アミと過ごしていた部屋だ。
雲雀の部屋とは違い、窓のない浴室に先程から四十分籠りっぱなしになっている。
湯を張った浴槽に顎まで漬り、あちらこちらに付いた怪我の傷口がじわじわと痛むのを耐えていた。
―――あの後、奥田によって事態は全て丸く収まったらしい。
(…バタバタしてて、なんかよくわからなかった)
双子は監査官によって捕らえられ、再犯の可能性がないようなら静養を兼ねて箱舟へと収容されるらしい。
真醍は鍾鬼と共に、西部箱舟の医務室で治療中だ。
本人達が思うより、ずっと傷は重かったらしい。
(ササリが付いてるから大丈夫だろうけど…)
―――鍾鬼は、目覚めなかった。
ドクリ。
「…っ、」
漬かり始めと比べれば、湯が黒く濁っている。
意識がない間、桐生によって浸されていた黒い液体は皮膚に染み込み、施術痕に入り込んだそれは、擦っても爪を立てても取れなかった。
とくりとくり。
修羅に救われた心臓が、胎内の深みで跳ねている。
(…きたねーの)
こんな醜い手で、雲雀に触りたくなかった。
人形であったにしろ、人を殺した、この赤く罪深い手。
そして仲間に手を掛けた、裏切りの手で。
「ごめん…」
―――そして臆病な私は、全てを知った神に触れられない。
ピチョン…。
白い天井から滴る水滴は、一体幾つ、この黒い水面に波紋を描いただろうか。
温くなってきた湯に、倫子はゆっくりと鼻を――鼻から水が入っていくあの感覚って最悪だ――浸けた。
かぷり、と気泡が浮いて、ぼんやりとする意識が眠りに就こうとする。
昔から長風呂は苦手な性質で、こんなに長く風呂に漬かるのは初めてだった。
もやの掛かる意識は、ゆっくりと湯にたゆたい、悪魔のような心地好さが全身を蝕んで、体を重く、或いは不愉快に軽くさせている。