AEVE ENDING
「雲雀…?」
―――あぁでも、こんな風に僕の名を呼ぶのはきっと、彼女が最初で最期なんだろう。
見下ろした小さな体は、お世辞にも綺麗だとは言えないけれど、ねぇ、橘。
「醜い橘でいい。継ぎ接ぎだらけの体しか要らない。橘なら、どんな醜いものだって、いい」
―――だから、頂戴。
最期の懇願は声に出さず、口付けた咥内に無理矢理流し込んだ。
「…、」
強ばる体が、ひくりと震える喉仏が、躊躇いながら縋る、傷だらけの指。
「…橘」
雲雀が呼べば、倫子は下から睨み付けた。
「…見るな」
そうして飛び出したのは、拒絶の言葉。
(また…)
呆れる、と息を吐きかけて。
「は、恥ずかしい、から」
「……」
「っ、見るなよ…」
「―――ねぇ」
「っ!」
「殺したくなるから、もう黙ったほうがいいかも」
滅茶苦茶に、ねぇ、したくなるから。
がちがちになった首筋をべろりと舐めて、そのまま耳朶に這い上がり、なぶるように柔らかな頬に噛み付いた。
ひくりひくりと顔を赤くして堪えるその様子が、堪らなく、いい。
噛み付いて傷をこさえて血を流し全て吸い尽くして痣を描きそして奥まで奪い尽くして。
「っひばり、」
そうして呼ぶ名は極上の毒だと初めて知った。
(…あぁ、目眩がする)
視界を埋める醜悪なそれは、どこまでも膿んだ棘。
―――もう、奪ってしまおう。
「倫子ー!」
ガタアアァァーン…!
「…っ!」
雲雀が理性を手放しかけた時、けたたましい音と共に部屋の扉が開いた。
倫子に跨がったまま視線を向ければ、奥田とアミが扉を開けた勢いのまま呆然とこちらを見ている―――。
(それは、そうだろうね)
なにせ今の雲雀と倫子の状態は、端から見れば俗に言う「最中」なのだから。
(…実際、そうなんだけど)
呆然とする奥田とアミと、それから、倫子。
曝していた倫子の裸を奥田に見られないよう、シーツを掛けてやれば。