AEVE ENDING
「―――雲雀という鳥は、太陽に恋をしてしまったのですね」
雲に覆われた空がささやかに発光している。
いつだって穏やかな空気が変わらないこのテラスに囲われて、この楽園の主人、真鶸(まひわ)は小さく呟いた。
革張りの座椅子に行儀よく座るその少年は、美しい濡れ羽色の髪を揺らし、大きな瞳は緩やかに微笑んでいる。
彼の話を聞いていた麗しい女性は、無邪気な少年へ少し疲れた微笑を返した。
「…えぇ。ヒバリはお日様に恋をして、触れたくて触れたくて、大好きなお日様に届きたくて、そして飛び続けて、死んでしまったのよ」
爽やかな風が吹き抜けていった。
ヒバリはまだ、鳴かない。
その横顔があまりに寂しげだったので、真鶸は笑んだ口許を少しだけ引き締めた。
―――ヒバリ。
(この名を持つ麗しい人を、僕は知ってる)
「母様…」
静かに揺れるレースのカーテンを、まるで吸い込まれてしまうかのようにぼんやりと眺めている美しい女性。
彼女がこのテラスに居座るのは随分と珍しい。
なにがあったのか、尋ねなくてもわかる。
麗しいこの人はいつだって、孤高のあの人しか見えていない。
―――ねぇ、母様。
「それを知っていて、兄様にその名をつけたのですか?」
(ごめんなさい、母様。僕は悪い子です)
麗しい人はそれはそれは驚愕を隠せないようで、その湖のような眼を傷付いたように煌めかせた。
けれど、すぐさまいつもの笑みを繕って、真鶸にゆったり微笑み掛ける。
(どんな中途半端な笑顔だって、この人はとても美しく鮮やかに仕上げて見せる)
「全く、真鶸はお馬鹿さんね。そんなこと言ってないで、早く準備なさいな」
ほら、華が咲いたみたいに、綺麗だ。
(―――でも、活けられた花のように悲しい)
真鶸が変わらずに笑って椅子を立てば、母と呼ばれた女性はあからさまにほっとしたようだった。