AEVE ENDING
「…あれ」
ふと、辺りを見回した。
初めて訪れた箱舟の造りはバロック式教会か、カトリック病院。
白漆喰の美しい回廊に、気付けば自分一人、ぽつんと立っていた。
案内人についていっていた筈なのに、何故、今、自分はこんなところに一人でいるのか。
(…建物に夢中になりすぎて、はぐれてしまったのかしら)
迷い子、真鶸は均整のとれた円柱が続く美しい回廊に身震いする。
―――静かだ。
「…だ、誰か、いませんか」
今まで、独りという感覚を味わったことのない真鶸には、この異様ともいえる静けさは耐えられそうもなかった。
思わず、涙ぐむ。
齢十二を数えたばかり。
ただでさえ隔離された生活のなかで精神が未熟だというのに、これは耐えがたい。
知らない場所、知らない匂い、知らない空気、知らない静謐。
(―――百余名のアダムが生活している筈なのに、誰もいないみたいだ)
まるで、世界で独りぼっち。
不安にドキドキと鳴る心臓を抑え、真鶸はごくりと喉を鳴らした。
とにかく、案内人を探さなくては。
自分の鈍臭さのせいで多忙であろう人達に手間を取らせては、兄の名にまで傷が付いてしまう。
それだけは、避けたい。
完璧で非の打ち所のない神の名を持つ大好きな兄に、迷惑だけは掛けたくなかった。
真鶸は勇気を振り絞り、襲いくる不安と孤独に耐えながら直感で回廊を進むことにした。
―――が。
「…っひゃあ!」
そんなまさか。
どこからともなく、鋭く磨かれたナイフが飛んできた。
それも、頬を掠めて真横を通過。
耳が削がれなかったことが不幸中の幸いだった。
キィンと音を立てて背後の柱に突き刺さったそれは、前方で行われている喧嘩―――なのかどうか、真鶸にはいまいち判断しかねたが―――の、とばっちりだと思われる。