AEVE ENDING
本人にしてみればそんなこと百も承知なのだろうが。
(いい虫除けができたのかも…)
降りかかる不愉快な小虫達を薙ぎ払わせる分には役に立つ。
雲雀は自分を訪ねてくる多くの訪問者達の相手を倫子に全て委ね、再び本に意識を向けようと視線を落とした。
「…雲雀さんはいらっしゃいますか?」
しかし今回の訪問者は、そう簡単に気分は害さないらしい。
倫子のふざけた問答を相手にすることなく、冷静で平坦な声。
「留守」
雲雀に言いつけられた通り、倫子は不躾にもそう答えた。
雲雀に直接ものを言うアダムはそう多くはないが、相手をするのが面倒なので居留守を遣わせることにしたらしい。
勿論、雲雀の思惑通り、訪問者の矛先は倫子に向かう。
身の程知らずの間抜け共が自分を棚上げして第三者に八つ当たりする様は無様で醜く、滑稽だった。
そんなつまらないことに興味があるわけではないが、それに対して相手を一刀両断する倫子の対応が面白い。
読書の片手間で愉しむ、下らない退屈凌ぎ。
「…こんなことを言うのは大変失礼だが」
雲雀が留守と聞いて安心したのか、訪問者のふたりは態度を一変して倫子を見遣った。
その眼には、先の訪問者達とは違った色が浮かぶ。
―――それは、憐れみ。
「…?」
今までとは明らかに違う態度を訝しみながらも、なにを言われるかと身構える。
それに気付いたのか、浮かぶ憐れみを一層強くして、訪問者は口を開いた。
「…貴方の器は、雲雀さんには相応しくない。あの方はこの地上で最も「神」に近しい方…。或いは「神」そのものと言っても過言ではない。勿論、我々のなかにならば、あの方と釣り合う者がいるというわけではない。あの方に相応しい者など居ないのです。―――この地上には、誰、ひとり」
青年の口調は酷く冷静で淡々としたものだった。
まるでキリストを説く宗教家のように、「偶像」を慕う皮を被る、狂気。