AEVE ENDING
十二歳にしては身長の低い真鶸だが、女性にこんな簡単に抱き上げられるとは。
「…あぁ、大丈夫大丈夫。私が人より力持ちなだけだから。あんたもすぐでっかくなるよ」
豪快な性格。
頭の中まで読まれてしまった上に笑い飛ばされてしまったが、不思議と嫌な感じはしない。
「まだアダムなりたて?ストッパーが巧く作動してないね」
くつくつ喉を鳴らす彼女は、とても楽しそうに笑う。
こんな風に笑う女性を、真鶸は初めて見たかもしれない。
「ぶぇックシ…!」
…そして、女性がこんなくしゃみをするのも初めて聞いた。
「飯食いに部屋出たらさ、なんかオドオドしてる小さな気配があるなって思って見に来たんだ。…迷子?」
みちこ、と彼女は名乗った。
たちばなみちこ。
とても素敵な名前ですね、と真鶸が言えば、照れ臭そうにありがとう、と笑う。
(…僕より年上だけれど、とても愛らしい人)
「どこ行きたいの?あっち?」
よしよし、と涙の跡が残る真鶸の頬を撫でて、倫子は歩き出した。
―――金色と黒色が喧嘩してる、まさしくその方向へ。
「…あっ、あの、あっちは危ないです!」
行き先にびくりと身体が跳ねる。
先程より激化してる喧嘩…で済ませるほどかわいくもない乱闘の真っ只中を突っ切る気だろうか。
「は?…あぁ、馬鹿ふたりね。大丈夫、大丈夫」
けれど倫子は真鶸の頭をぽふぽふ慰めるように叩くと、なにやら奇声を発している二人に足早に近付いていった。
「えぇ加減くたばれや、この嘘つき異人めがぁあああ!」
「…黙れ、耳が腐る」
(こ、こわい…)
明らかに殺し合いレベルまで達している二人に身が竦む。
しかし真鶸を抱き上げたまま、倫子は平然と渦の中に入り込んでしまった。
「はいはい、やめてー。通るからー」
よく通る声が、先程まで鬼の如く戦っていた二人の動きをぴたりと止めた。
まるでモーゼにでも抱かれている気分になる。