AEVE ENDING
「似てるなー、かわいいなー、こいつ」
「寄るなケダモノ。ていうか、あんたいつまでもここでダラダラしてないでさっさと島に帰れよ。奥さんと産まれた子供を放って馬鹿やってんな」
倫子が真醍を叱った言葉に、真鶸は驚愕した。
(真醍さんが妻帯者で、そして父親…)
これは意外な事実だったが、そろそろ時間が気になりだした。
ちらちらと道の先を気にする真鶸に気付いたのか、倫子は素早くふたりに別れを告げると、回廊の先を進んだ。
「時間食ったね。ごめん」
倫子が控え目に笑う。
その言葉に、真鶸は慌てて頭を振って否定した。
迷子を助けてもらい、あまつ抱っこまでしてもらっているのに。
「この辺りは教室がないからさ、教師も生徒もあまり寄りつかないんだ。たまにアイツ等みたいな物好きが来るくらい」
物音ひとつしない静かな回廊に、倫子の足音だけが響く。
真横の吹き抜けから吹き荒ぶ潮風は真鶸にとっては新鮮で、おかしな話だけれど、あぁ、生きてるいるのだなぁ、なんて妙なことを実感してしまった。
「っブシ、」
そして倫子は、先程からくしゃみが止まらない。
「倫子さん、大丈夫ですか?ぼ、僕、歩きます」
真鶸が尋ねる度、倫子はへらりと笑って見せる。
「いいじゃん。私、五人兄弟の長子なんだけど、今は一緒にいれないから」
なんか弟と一緒いるみたいで嬉しいよ。
控え目に笑うそれは真鶸にはなんだか悲しく見えて、けれど倫子はへらりと笑っただけだった。
「…家族に、会いたいですか?」
やはり控え目に、巧く気を遣うこともできず、あからさまに尋ねてしまった。
それでも倫子は嫌な顔ひとつせず、真鶸が今まで触れたこともないような笑みを躊躇いなく向ける。
「まぁね。……ねぇ、マヒワは?マヒワも、これから頑張っていかなきゃじゃん」
そうして真鶸を励ますように、家族にするように、頬擦りする。
(―――姉様がいたら、こんな感じだろうか)
こういった優しさには、馴れていない真鶸は、照れて火照った頬を隠すように前を見た。