AEVE ENDING
「…僕は、ここに兄様がいるんです。兄は幼少の頃からアダムとしての能力が目覚ましくて、すぐに箱舟に収容されてしまったので、あんまり会えませんですた。だから、今はただ、久しぶりに兄に会えるのが嬉しくて…」
はにかみながら語る真鶸に、倫子は思わず彼の姉になったかのような気持ちになってしまった。
「そか。じゃあ早く、案内人を見つけなきゃね」
くしゃみのし過ぎで赤くなった鼻で、倫子は笑う。
(兄ちゃんかぁ。…弟がイヴと仲良くやってたら、面白くないよなあ。誰にも見られないうちに、離れたほうがいいかも)
そんなことを倫子が考えているとも露知らず、真鶸はただその腕に抱かれふわふわと新しい生活に夢を膨らませていた。
「ここを真っ直ぐ行ってすぐ、案内人がいるから」
やっと人の気配がしてきた頃、倫子は用事があると言い訳して真鶸をそっと床に降ろした。
人のざわめきが届く寸前、まるで狙いすましたように思われ、真鶸は不思議に思う。
「―――あ…、ありがとうございます。倫子さん」
真鶸が律義に頭を下げれば、倫子は膝をついてその小さな背に目線を合わせた。
こうして躊躇いなく膝を汚せる人を、真鶸はあまり知らない。
「いいってことよ」
(―――あぁ、なんて綺麗な笑顔だろう)
「…また、また会えますか?」
そんな真鶸の言葉に、倫子は少しだけ困ったように眉尻を下げた。
「…倫子さん?」
真鶸の愛らしい顔が、不安そうな表情に変わる。
明け透けな倫子にそんな顔をされるとは、思いもしなかったのだ。
「会えるよ。会えるけど、私に会ったことは、兄ちゃんにも友達にも、内緒ね」
人差し指を唇に立てて、倫子はヒミツ、と笑う。
真鶸は誰かとそんな秘密を交わし合う経験なんかなくて、ただ、それだけで高揚してしまった。
「約束」
差し出された小指に、本で読んだ通りに指を絡ませれば。
ゆーびきりげんまんうーそついたーらはーりせんぼんのーます。
「指切った!」
ふははと笑って、倫子は真鶸の頭をぐりぐり撫でた。
「約束だよ」
「はいっ!」
なんて素敵な、約束。