AEVE ENDING
そうして倫子と別れてすぐ、真鶸ははぐれてしまった案内人に泣きつかれた。
人通りが増えると、道行くアダム候補生達が真鶸と案内人の組み合わせを物珍しげに眺めてきた。
「―――ねぇ、あの子、可愛い…」
「例の新入り?」
「ちょっと、想像と違うんだけど」
「あの子だったら、雲雀様と組んでいいかも…」
「ていうか、似てない?」
「…そうかなぁ?」
「珍しいタイプだね」
「感知系?」
「精神系タイプじゃないの?」
「使えないにしたって、イヴよりマシだわ」
「言えてる」
―――イヴ?
まるで見せ物になった気分だった。
「騒がしくて申し訳ありません。…なにぶん、礼儀をわきまえない下々の者ばかりで」
ざわつく周囲に、案内人が困惑したように頭を垂れる。
それよりも真鶸は、「イヴ」という単語が気になっていた。
謝罪に首を振りながら尋ねれば、案内人はあからさまに眉を寄せる。
なにか不味いことでも訊いただろうか。
しかし真鶸も今日からこの箱舟の一員。
(…なにも知らないままの、無知な雛鳥ではいたくないから)
「…坊っちゃまは知らなくて良いことですよ」
あぁ、温室育ちがまだ抜けていないのかな。
「教えて」
少し語尾を強めれば、案内人は冷や汗を流して溜め息を吐く。
「―――イヴは、アダムとは対称的な陰語でして。…まぁ、アダム間で使用されている差別用語といいますか。アダムでありながら能力値が陰性であり、マジック(テレパスなど、レベルの低い初歩的な能力のこと)しか使えない者を指します」
差別用語。
―――『イヴ』。
「…そんな方が、この西部箱舟にいらっしゃるんですか?」
差別用語と言うくらいだ。
もしや迫害されているのだろうか。
それはよろしくない。
兄が統治しているらしいこの箱庭のなかで、そんな陰湿な行為が罷り通っているなんて。
辺りから忌々しげに連発されている、「イヴ」。
(…一体、どんな人だろう)