AEVE ENDING
「坊っちゃまが気になさるような者でもありませんよ。気性が荒く、言葉遣いも粗雑で、まるで野犬…。イヴである以前に、周りからは毛嫌いされております」
全く、と憤慨したように案内人の男は吐き出した。
その様子に、本当に色んな人がいるのだと、真鶸は妙に感心してしまう。
(この箱舟が、今日から僕の家であり、庭―――)
ザワ…。
「?」
不意に、周囲のざわめきが大きくなった。
垣根のように集まって真鶸一行を眺めていたアダム達が、真鶸達が立つ場所よりずっと先のほうに注目している。
「…あぁ、いらっしゃいましたね」
感嘆ともとれる響きで言うと、案内人は真鶸に一礼してするりと人混みに紛れてしまった。
「…、?」
置いていかれた形になり、真鶸は思わず不安になる。
周囲のざわめきは大きくなるばかりで、縋るように、もう一度前を見た。
高い垣根が割れて、不意に届いた圧し潰されそうな圧力に息が詰まる。
人々の陰影の向こうから、ひとつの痩躯が真鶸に向かってきていた。
静かに歩む振動に微かに揺れる艶やかな髪は夜の海を溶かしたように美しく、消えてしまいそうなほどまばゆい白磁はやはり表情を伴わない。
けれど、その長い睫毛に縁取られた眼だけは深く鮮烈で、無意識下で弱者を虐げてしまうような、圧倒的な美しい異質。
語らない薄い唇はやはり、どの形も象らない。
見間違う筈が、なかった。
「…兄様!」
鳥籠に捕らわれた僕とは違う、自由に羽ばたく美しい人。