AEVE ENDING
真鶸はその姿を認めた途端走り出した。
「兄様!」
喜びに満ちたその声に、その場に居合わせた全員が絶句した―――。
勢い良く駆けた真鶸がその細い腹に抱き着いて、兄である雲雀を感じようとぐりぐりと押しつける頭がなんとも愛らしい。
「…遅かったね、真鶸」
久しく会っていなかった弟の頭を撫でながら、雲雀は今まで発したこともないような優しげな声でそう言った。
その声に促されるように、真鶸は雲雀の腹に埋めていた頭をゆっくりと上げる。
「ごめんなさい、兄様。道に迷ってしまいました」
正直にそう語る真鶸に、雲雀は緩やかな笑みを溢す。
「…そう」
雲雀が万人の前で見せる、初めての慈愛。
(雲雀様の弟?)
(そんな話、一度も聞いたことないよな!?)
(雲雀様が、優しいわ)
(…弟なら、ペアを組むのも頷ける)
(雲雀様が神だとしたら、マヒワ様は天使ね)
(かわいい…)
周囲が好き勝手にテレパスで会話しているなか、雲雀は真鶸を連れて回廊を抜けた。
残されたアダム達の間には、夕食時に至るまで、真鶸と雲雀の話題しか上がらなかった。
「ここは静かなのですね」
道行く人の数が先程より減り、ぽつりぽつりとこちらへと視線を投げてくるなか、雲雀と真鶸はゆったりと白い回廊を歩いていた。
円柱が並ぶ高い球天井のこの回廊からは、海が見える。
(海…。こうして見るのは初めて)
周囲にいた医者や看護婦、父や母、皆が皆口を揃えて「死海」と呼んだこの海は、真鶸の目には到底そうは見えなかった。
(だって、まだ波があるもの。ちゃんと生きているんだ…)
そんなことに感動しつつ、真鶸は隣を歩く兄を盗み見る。
涼やかな横顔は相変わらず寸分の狂いもなく美しく、けれど造り物のような無機質さは感じられない。
(少し…、背が伸びたみたい)
見上げた上背は以前より高く感じ、真鶸は尊敬する兄との縮まらない距離に少しだけ悲しくなった。