AEVE ENDING
「雲雀様」
回廊を抜けて、おおよそ食堂には見えない食堂に立ち寄った。
白亜の教会のようなそこで、朝比奈が雲雀に声を掛けてきた。
ふぅわりといい香りが辺りに舞い、真鶸の鼻を擽る。
母の香りに似ているようで、それよりも若く爽快な香り。
「…なに」
雲雀は興味もなさそうにそちらを見ると、短く答えた。
朝比奈は相変わらずのそれに少し怯んで、それから真鶸へと視線を下げる。
「こんにちは。ここ、西部箱舟会長の朝比奈ですわ。心より真鶸様の入学を歓迎申し上げます」
にこりと品良く微笑んだそれは、やはりどこか真鶸の母に似ていたが、似ているようで似ていない。
倫子とは違う優しさが漂う人だと、真鶸ははにかみながら思った。
「雲雀様の弟君ということで、そのご年齢で高等部で生活することになりましたが、なにかお困りのことがありましたら、どうぞ気兼ねなくお申し付けくださいませ」
朝比奈は丁寧に丁寧に、それはもう年下の真鶸に掛けるにはあまりに過ぎた気遣いを見せる。
真鶸はいたたまれなくなってしまった。
(…倫子さんに会いたいな)
まだ別れて数分しか経っていないというのに、真鶸はあの朗らかで人懐っこい笑顔が懐かしくて堪らなくなっていた。
こんなよそよそしくされては、自分の居場所を見失ってしまいそうだ。
「雛ぁ!メシー!」
照れながらも挨拶を受けていたところへ、暢気な声が響き渡った。
声の主―――赤茶けた髪を寝癖のように跳ねさせた武藤が、勢いよく走ってきた。
かと思えば、そのままの勢いで朝比奈に抱きつく。
(わぁ!)
いきなり密着した男女を目の当たりにし、真鶸はがちりと固まってしまう。