AEVE ENDING
「…っお離し、武藤。わたくし、忙しいんですの…!」
朝比奈は顔を真っ赤にして照れている。
そんな朝比奈にデレデレしていた武藤が、ふと真鶸を見た。
「あ、雲雀さんのオトート?」
「…は、はい!」
いきなり話題を振られて焦ってしまう。
「へぇー兄さんそっくりだな。ヨロシク」
にかり、と歯を見せて笑う武藤はどこか倫子に似通うものがあり、つい嬉しくなる。
真鶸もにへらとらしくない笑みで笑い返してしまった。
(武藤さん、いい人…)
彼も、修羅だカリスマだ弟だと気にする人柄ではないようだった。
その存在が、嬉しかった。
「…それでは雲雀様、もしなにかございましたらお申し付けくださいませ」
雲雀達の前ということも気にせずベタベタする武藤にとうとう堪えきれなくなったのか、朝比奈は早口にそう巻くし立てたかと思うと頭を下げて颯爽と姿を消してしまった。
まるで嵐だ。
「箱舟には、面白い方々が沢山いらっしゃるのですね」
きらきらした目で言えば、そうかな、とそっけない返事が返ってきた。
真鶸は少し悔しくなって、歩き出した雲雀に続きながら口を開く。
「迷子になっている間も、金色の頭をしたサルと呼ばれる方と、黒髪の綺麗な異国の方が喧嘩をなさってましたよ」
しかし真鶸がそれを口にした途端、雲雀からじわりと重たい空気が流れ込んできた。
「…絡まれなかった?」
うんざり、と言いたげな声色。
―――もしかして。
「…絡まれました」
この反応だと、兄もあのふたりを知っているらしい。
「…そう。今度もし話し掛けられても、無視していいから」
雲雀が呆れたように溜め息を吐く。
こんな風に感情を表に出すのは、真鶸の知る兄にしては珍しい。
(会わないうちに、兄様にも変化があったのかしら)
それはきっと、素晴らしい変化なのだろうと思う。