AEVE ENDING








(僕が幾田桐生氏のもとで治療中、アダムとして覚醒したように―――)

それは真鶸にとってとても嬉しいことだ。

あまり周囲には知られていないが、雲雀は淡白そうに見えて少し気位が高いところがある。
倫子に言わせれば、少しどころではないが主観の違いだ。

頑固で意固地で、そして感情を露にするのが苦手なところがあった―――あくまで真鶸からの視点である。
もしかしたら、苦手というよりは、感情を露にする意味が見出せないのかもしれない。


(…あの二人を知っているなら、倫子さんのことも知っているかしら)

訊いてみたかったが、倫子との秘密の約束を破るわけにもいかず、真鶸は口を閉ざすことにした。

それに、倫子は恐らく、雲雀が一番嫌いなタイプだ。


(…だって、まるで太陽みたいだから)

もし出逢って恋をしてしまったら、雲雀は焦がれて焦がれて、心臓を破られて死んでしまうかもしれない。



―――そうこうしているうちに、同じ扉が幾つも並ぶ白い廊下に出た。

ところどころ開きっぱなしの扉を覗いてみると、どうやら箱舟に在籍しているアダム達の生活空間らしい。

整頓された部屋もあれば、人が住んでいるのかも怪しいほど散らかっている部屋もある。



「…凄いや。こんなに沢山の部屋…」

真鶸の呟きに、雲雀は呆れたようだった。

「これくらいの部屋なら、屋敷にもあったでしょ」
「そうですけど、うちはこんなに生活感が丸出しじゃないもの」
「…まぁ、そうだろうね。そうじゃなきゃ困る」


カツカツと雲雀の革靴が鳴る。
それに隠れるように響く、真鶸の小さな足音。


「ここではペアで暮らしてるんですよね?兄様もそうなんですか?」
「…見れば、解るよ」

うんざりしたように答えた雲雀に、真鶸は不思議そうに首を傾げた。

なにか、あるのだろうか。




―――カツリ。


雲雀の足が止まる。

回廊最奥の、角部屋。
扉を開ければ、そこには先程見てきた部屋達とはあまりにもかけ離れた空間が広がっていた。

雲雀の肌のように滑らかで美しい壁や床、繊細な調度品。

そして奥に広がる、息を飲むほどの、眺望。





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