AEVE ENDING
だから、今一度、部屋を見渡した。
白を基調とした壁や天井は目に眩しく、置かれた家具といえば中央のキングサイズベッドと、オフホワイトに木の骨組みが美しいソファだけ。
恐ろしくシンプルなそれらは、雑然を嫌う兄らしかった。
そして、メインルームは勿論、キッチンに洗面所、バスルームまで規定の広さの倍はあると思われた。
そして、テラス。高級ホテル並のその広いテラスは、遠方の陸地と水平線がよく見えて、澱んだ空の下でも酷く美しかった。
(とんだ区別だ…)
さすがに驚愕してしまったが、雲雀の実力と家元を考えれば当然の扱いのようにも思えてくる。
真鶸は荷物を解きながら、紅茶片手に洋書を眺め始めた雲雀を盗み見た。
綺麗な髪、綺麗な肌、綺麗な体、綺麗な眼、綺麗な心、―――美しい人。
纏う空気は清流のように静かで時に激しく、けれど停滞し汚濁することはない。
本当に自分はこの人の弟なのか、我ながらよく疑ったものだけれど。
「…なに?」
凝視し過ぎてしまったらしい。
掛けられた声にはっとすれば、訝しげに眉を寄せた雲雀が、真鶸を見ていた。
「…あの、僕もお紅茶を頂いてもよろしいですか?」
まさか見惚れていたなんて、言えない。
―――そんな真鶸に、雲雀は小さく笑った。
「!」
わ ら っ た …!
長い睫毛が影を造り、綺麗に整った柳眉は、歪んでいるのに美しく形を崩している。
口許は緩く釣り上げられただけで、本当に笑ったのかどうかすら、確信はないけれど。
(…やっぱり、兄様は変わられたや)
それもとびきり、嬉しい方向に。
雲雀の柔らかな雰囲気が新鮮で恥ずかしくて、真鶸は思わず逃げるようにしてキッチンへと駆け込んでしまった。