AEVE ENDING
(…あぁ、兄様に変な奴だと思われなかっただろうか!)
とくとくと鳴る心臓は臆病で間抜けで泣き虫だ。
そんな自分が嫌で嫌で嫌で、だからこそアダムとして覚醒したことをきっかけに、変わろうと決めたのに。
―――誰よりも誇らしい、兄のようになりたくて。
そうだ、だから。
(今日からアダムとして頑張るんだ―――)
決意も新たに、とにかく落ち着こうと言い訳めいた紅茶を淹れることにした。
産まれて初めて足を踏み入れたキッチンは物珍しく、なにがなにやらよくわからない。
絵本や本でなら見たことがあるが、いざ使用するとなると何が何だか、ちんぷんかんぷんである。
見渡せば、恐らく熱湯がセットしてあるらしい湯気を立てるポットがタイルの上に置いてあった。
(これで、えと、茶葉とカップ…)
そしてその横に、無造作に置かれた一客のカップに視線を送る。
「…?」
雲雀が好みそうではあるが、真っ白で飾り気のないそれは恐らく箱舟からなされるアダム候補生への支給品だろう。
やたらとアダムに甘い箱舟制度を良く思っていない兄の雲雀がこれを遣うとは思えない―――大体、兄は自分のカップを手にしていたではないか。
(兄様は余計なものを嫌うから、同じものは二つと置かないはずなのに)
真鶸は首を傾げつつ、そのカップに手を伸ばした―――その時だった。
…パター。
軽いなにかが柔らかななにかにぶつかる音…いや、正確に言えば落ちる音が、雲雀がいる筈のメインルームから聞こえてきた。
「ちょっと、邪魔しないで」
それから、不機嫌そうな雲雀の声。
お客様だろうか。
(あの兄様に、お友達…?)
持ち主不明のカップをいじりながら、真鶸はついつい耳をそばだてる。
「…ヒばりー、タだイマー」
お客様…ではないようだ。
それに、随分としゃがれた声をしている。
男か女か、判断出来ない。
(それに、兄様のことを呼び捨てにしてる!)
両親ですら呼び捨てにはしないのに。
何故か感動してしまった。