AEVE ENDING
「…人の話聞いてる?それに、なんなのその声」
呆れたような雲雀の声がする。
こんな親しみがこもった声を、真鶸は初めて聞いたかもしれなかった。
(…一体どんな人を相手にしているのだろう)
雲雀のルームメイトだろうか。
(気になる…)
ルームメイトならば、後でいやでも顔を合わせることにはなるのだろうが、真鶸は好奇心に駆られ、思わず忍び足でメインルームを覗き込んでしまった。
内心、雲雀に必死に謝りながら。
白い壁とドアの、僅かな隙間に眼球を寄せる。
丁度、ソファとそれに腰掛けている雲雀が見えた。
どうやらもうひとりは、広いソファの空いた座席部分―――雲雀の背後に倒れ込んでいるらしい。
持っていたカップと洋書を床に置き、雲雀は肩越しにそちらを見ながら顔の見えない誰かと会話を続けている。
「食事は済ませたの?」
「味噌汁とご飯頼んだらさぁ、……あのババア、完売しましたとか言いやがった」
「…食べてないの?」
「途中で会ったアミにーおにぎりもらった」
「薬は?」
「…粉薬だし」
「飲みなよ」
「いやだー」
「殴るよ」
「…も゛ー、アたマいたイ」
どうやらもうひとりの方は具合がよろしくないらしい。
大丈夫だろうか。
薬なら、真鶸の荷物の中に沢山入っている。
(この歳で薬物中毒ってわけじゃないけど、…まぁ、似たようなものかな)
幼少の頃から、様々な病に倒れ伏してきたこともあり、最低限の薬は持ち合わせている。
「…寝たら」
声を掛けようとしたら、雲雀のその声にタイミングを逃してしまった。
「…最近、アんま良くないンダ」
「頭が?」
「……グス」
「鼻水」
雲雀が立ち上がるが、それでももうひとりの顔は見えない。
衣擦れの音がする。
立ち上がった雲雀が、なにをするのかと、黙って見守れば。
その細腰がゆっくりと曲がる。
未だかつて―――まさか雲雀という兄が腰を折る日がくるとは思いもしなかった。
そんな雲雀の首ににょろりと腕が伸びて、ぎゅうと抱き着く、誰か。
(きゃあ!)