AEVE ENDING
「落ちないでね」
「…ウス」
屈んでいた雲雀がその人を抱き上げる。
抱えられた両脚と首に回された腕だけ見えて、あとはまるでわざと巧妙に隠されているかのように見えなかった。
(女の人…)
足首とふくらはぎの曲線を見る限り、雲雀に抱き起こされた人は、明らかに女性だった。
(兄様が、他人に触ってる…)
昔から潔癖性の兄は、その髪すら他人に触れられるのを嫌うというのに。
(…というより、兄様の圧倒的な空気に圧されて、彼に触ろうなどとする人は、現れなくて)
実の母にすら、触ることを厭う人だったのに。
―――それを「彼女」は、なんの弊害もなく。
あまりのことに思わず固まっていると、真鶸が先程開けようとして止められた部屋へと雲雀とその人は消えてしまった。
「びっくりした…」
なにより、兄にそんな人がいたということが。
(一体どんな人だろう…)
とんでもない美女なのか、或いは世界にふたつとない美声の持ち主なのか(今は枯れてたけど)、或いは、黄金比の肉体だとか。
「兄様…」
(…き、気になる)
思わずキッチンから飛び出してしまった。
その時―――不意を突かれるのは何回目だろうか―――だった。
ガシャーン。
「きゃあっ!」
(な、なんの音…!?)
いきなり響き渡った破壊音に、思わず転倒する。
―――そして。
「…っいい、いった、…!え、ちょ、ぎああああああっ!なにすんのお前!珍しく優しいと思えばこのクソ野郎…!病人になんてことしやがんだ、うわっ」
バシーン…!
(今度はなに…!?)
思わず半開きのドアの前に駆け寄る。
なかからはバタバタと暴れるような音。
「いたいぃ!もう!殴るな!殴るなってば!やめ…っ」
(悲鳴まで!)
「ま、まさか兄様…、ぼ、暴力、を」
―――有り得なくない。