AEVE ENDING
「ごごごごめんなさい…!僕、そんなつもりなくて、まさか、兄様が、あの、倫子さんと、きゃあ!ごめんなさい…!」
もう死ぬ気でがばりと頭を下げた。
倫子は顔を真っ赤にしたまま相変わらず呆けている。
雲雀は、やはり深く溜め息を吐いた。
「構わないよ。悪いのは橘だから」
―――ふう。
浅い息と共に吐き出されたそれに、倫子がやっと動きだす。
赤い顔のまま、まだ真上にいる雲雀を睨みつけた。
「黙れ、このファシズム」
「…弟の前で兄を冒涜するつもり?」
「いっでぇ!」
雲雀の綺麗な指先が、倫子の頬を容赦なく摘まんだ。
ぎゅうと鳴ったそれは餅のように伸び、とても痛そうで、真鶸は慌てて止めに入る。
「兄様、ダメです!倫子さんは具合が悪いんです!」
回廊で出逢った時も咳ばかりしていたのだ。
具合は悪化しているに違いない。
「ただの風邪だよ。それも自業自得」
「……ニイサマ?」
「それでも安静にしなきゃだめです!風邪を拗らせると怖いんですよ!」
「…え?オニイヤン?」
「橘は馬鹿だから死なない」
「オイ」
「もうっ兄様!」
「え?」
「ちょっと、さっきから五月蝿い」
―――ドバシッ。
「きゃあ!倫子さん!」
雲雀に殴られた倫子が再びベッドへと倒れ込む。
なんだかもう見ていられなくなった真鶸は、慌てて倫子と兄の間に割って入った。
倫子はベッドに背を預けた状態のまま、悲鳴を上げる気力も悪態を吐く余裕もなくなったらしい。
「…橘、理解できてる?」
そんな倫子の顔を、雲雀が指先でついと上げさせた。
(こんな嫌悪なく、自然に人に触れる兄様を初めて見た…)
「……え、弟?」
そんな雲雀と真鶸を交互に見据えながら、大概、反応の遅い言葉が倫子から発せられる。
呆然とする倫子の前で居住まいを整え、ぺこり、真鶸はもう一度頭を下げた。
「改めまして、倫子さん。兄様の弟の、真鶸です」
―――あぁ、さっきはびっくりしたけどまさか兄様の「そういう人」が倫子さんだなんて。
なんて嬉しい真実だろう。
(だってまさか倫子さんだなんて!)
けれど倫子はまだ混乱しているようで、左右、睫毛の長さが違う目をパチパチさせている。