AEVE ENDING





(今日は珍しく、僕が語り手なんだ…)

懐かしさを噛み締めながら、兄曰く「ふたり」の言葉をゆっくりと思い返す。



「―――…僕に精進するように、と。一人前のアダムとして、国の役に立てと仰られました」

地上唯一、麗しく全てを兼ね備えた兄に恥じぬように。


『…羽ばたきなさい』

あの人はただそれだけを望んでいた。



―――そう、ただそれだけを。


(僕が産まれた時も、きっと兄様が産まれた時も、ただ、ひたすら。

自らが忙殺されるなか、それでも父の目を盗み、僕達を外へ導こうとしていたのだろうか。


「あの人も、相変わらずだね…」

吐き出されたそれに滲むのは、諦観。
あの人に対する兄の意識はまだ、風化しないまま胸に留まっているのか。

あの温室のなか、ただ空に焦がれるまま閉じ込められていた僕とでは、其処に勿論、差異はあるけれど―――。



「真鶸」

思いに耽っていた真鶸を、静かで満ちるような声が呼び起こす。
顔を上げれば、あの頃となにひとつ変わらない眼。


「―――君は君の信ずるまま、進めばいい」

それはまるで、僕の背を押す穏やかな風のようだと。

(兄様も、相変わらずお優しいですね)

そう思ったのは、内緒。




そうして空が暗くなるまで雲雀と真鶸と話し込んだ。

会えなかった時間をすべて満たしてしまうような、柔らかく温かな、けれど少し緊張してしまう、時間。

けれど、空が昼とは違う暗さにすっかり様変わりする頃、矢継ぎ早に飛び出る真鶸の質問に受け答えしていた雲雀が不意に立ち上がった。


「…兄様?」

その足が向かう先は、倫子の部屋。

薬を飲ませてからは健やかな寝息しか立てていなかった倫子の様子が気になったのか。

(かいがいしい…)





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