AEVE ENDING
「まままままままひわっ、まひわです、ひゃあ!」
ぶんぶんと揺さぶられながら、真鶸が答えれば。
「ままままひわ…!?」
「変わった名前だね」
ち が う…!
「―――煩い」
よく通る威圧的な声。
三人一同、同時に振り向けば、眉間に皺を寄せた雲雀の姿があった。
「全く…、今日はなんなの」
呆れ返った声。
手には、濡れタオル。
(あ…、倫子さんのだ)
なんだかんだいって、甲斐甲斐しい兄に真鶸は思わず胸中で笑ってしまった。
そしてその加護を一身に受ける倫子が、少しだけ羨ましい。
「ヤホー、雲雀くん。倫子はどんな感じ?」
白衣が揺れる。
女は思い出したかのように倫子の部屋へと駆けこんでいった。
奥田と呼ばれた男は、雲雀の手から濡れタオルを取ると、倫子の部屋へと視線を向ける。
そんな奥田を横目に、雲雀は浅く溜め息を吐いた。
(…少し、疲れてるみたい)
ほんの少しの疲労を滲ませたそれは、雲雀にしてはとても珍しい。
「今は寝てるよ」
「…発熱が続くね」
「本人は、ただ体調が悪いだけだと思ってるみたいだけど」
―――だろうね。
ぽつりと漏らされた奥田の声は、空気に音もなく溶けてしまいそうに密(ひそ)やかだった。
まるで、「誰か」に謝罪しているように。
「―――で、こちらが雲雀くんの弟君?」
不意に向けられた視線に、真鶸は姿勢を改める。
こんな無気力な眼をした人を初めて見る。
―――少し、苦手かもしれない。
「話しかけないでくれる、バイ菌が移るから」
挨拶をしようと口を開いた真鶸を、雲雀の辛辣な言葉が遮った。
「…んっもう、雲雀くんたらぁ!先生を泣かせないでくれるかな!」
真鶸が話を聞くと、奥田はここ西部箱舟の保健医で、先程のアミという女は、倫子の親友なのだそうだ。
「あぁ、本当…。波長が雲雀くんにそっくりだね。最も近い血縁者特有というか」
奥田さんは僕の頭を撫でながら、作り損なったかのような笑顔で言った。