AEVE ENDING
(…きもちわるい、)
ぐつぐつと沸き上がる嫌悪感に喉が焼ける。
―――桐生に人形にされてから、一週間は過ぎた。
けれど何故か、倫子は体調を崩したまま回復しなかった。
念のためと奥田に検診を続けてもらっても、原因は不明。
風呂に入って風邪を引いた云々、雲雀は倫子を慰めるために言っていたに過ぎなかった。
(重い…)
自分の身体なのに自分のものではないような、全身を取り巻く倦怠感と神経への負荷。
ぐつぐつと煮えるような脳味噌は意識を朦朧とさせるしか芸のない、ただの役立たずと成り果てた。
相変わらず非力なアダムの倫子だからこそ、無差別に能力を解放した仇が今になって出てきたのだろうと、奥田は推測した。
―――どこまでも私を追い詰める綻ぶ自身の躰に、苛立ちを隠せないでいる。
あの頃は、この身体がここまで疎ましく感じるなんて思いもしなかったのに。
『…ねえちゃん』
鼓膜を震わせた懐かしい声はどこか曖昧で、あぁ、マヒワに会ったからか、と熱に浮かされた頭で考えた。
(雲雀の、弟……)
あの男にまさか、弟がいるとは思わなかった。
(あんなクソ生意気なのに、お兄ちゃんなんだ…)
変なところで違和感を感じながら笑ってしまう。
あの雲雀が、オニイチャンだなんて。
『ねーちゃん!』
…あぁ、会いたいな。
故郷に残してきた弟妹に、父に母に、会いたい。
会って、声を聞きたい。
―――あぁ、それは、叶わぬ夢だろうか。
遠くから、少しの間、眺めるだけで、それだけで構わないから、だから。
(―――だから?)
『ねーちゃ、…』
『だれなの?』
『気持ち悪い……』
『ねーちゃ、ん…』
『だぁれ?』
あ、
あ。
こ、
わ、
い。
―――あぁ、誰か、
誰か、私を殺して。