AEVE ENDING
「…っ」
夢ならいい。
夢なら、今、この細い胸を借りて泣くだけで済む。
―――夢なら、いい。
「…ひばり」
雲雀の綺麗な指が皮膚を撫でる。
ざらりとざらつくのは、私の罪深い皮膚。
『…きたない』
遮断される。
『これは、だれ』
飲み込まれて、もう戻れない。
『こ れ は な に』
―――ねぇ、きれいな神様はどこに行ってしまったの。
「…ごめん」
気付いて正気に戻れば、馬鹿なことをしでかしたと苦虫を噛む。
雲雀にみっともなく縋りつくなんて、最悪だ。
(穢れてゆく…)
雲雀が、この身体に触れる度。
拒絶したいのに、できずにいる。
守りたいのに、守られている。
―――美しいまま保っていたいのに、私に触れては、汚れていく。
(…触らないで欲しいのに、触るなと、言えない)
堪えきれないのはきっと、私だ。
ただでさえ最近、構われることが少なくなってきていて、まさか嫌われたとか、やはり醜い私に触れることを厭うだろうか、とか。
(…こんな後ろ向きな考えしてるから、あんな嫌なものを見たんだろうか)
浮上するビジョン。
曖昧な境界線の上に漂ったまま、流れない。
「…重い」
おもい?
下から聞こえた声に、顔を上げる。
端正な顔が不機嫌に歪められて倫子を近距離で見ていた。
(あ、こんな近くでこいつのこんな顔見るのも久しぶりだ)
―――じゃなくて。
「ご、ごめん」
下敷きにしていた雲雀の上から慌てて退くが、バランスを崩して床に転がってしまった。
いたい。
「相変わらず、バカ」
そんな倫子を呆れたように雲雀は見遣る。
そのどこか、侮蔑か軽蔑か或いは不快かを含む視線に、身がすくんだ。
きらわれたら、どうしよう。
「…バカじゃない」
いや、私はバカだ。
バカ過ぎて頭が痛い。
しかも、寝過ぎた。
バカだ。
私はバカだ!