AEVE ENDING
(…傍にいてもつらい。離れてしまっても、つらい。…それに、このまま離れたら、なにもかもうやむやになる)
―――それこそ、この嫌悪感も痛みも愛しさも悲しみも、すべて。
『橘がいい。継ぎ接ぎだらけの、その体しかいらない』
あの言葉を。
『橘なら、どんなに醜くたって』
果たして救いと呼べるだろうか。
(…あぁ、でも、価値が失われることだけは、したくないから)
だから傍にいられたらと、祈るように乞うている。
―――カタリ。
紅茶のカップが床に置かれ、その音に顔を上げれば、雲雀が丁度立ち上がったところだった。
すらりとした脚がこちらに伸びてきて、その腰が曲げられる。
ベッドに腰かける倫子の、首筋に添って。
「させないよ」
それは脳髄を蕩かし、二度と役に立たないように、毒してしまうのか。
「…早く、覚悟を決めなよ」
本当は、早く抱きたくて、仕方ないんだから。
言外に伝えられたそれに目眩を感じるまま、後ろのベッドに倒れ込んだ。
ばふりと安っぽいシーツに埋もれた視界には、剥き出しの脚の指先。
それに雲雀の脚の指が触れたのがわかって、頭がおかしくなりそうだ。
(…わざとだ、)
―――ぎし。
スプリングが軋んで、無駄に「らしい」演出を作る。
やめてくれと叫びたいのに、叫べない。
倒れる瞬間に垣間見えた真鶸の顔は、きっと倫子より真っ赤だったと思われる。
(無垢な子を前に、いかがわしい真似はやめろ!)
(社会勉強だよ。いざその時、無知じゃ真鶸が可哀想でしょ)
(いざって!やめて!真鶸を汚さないで!頼むから黙れこのムッツリ!)
(…少しは自粛したら?僕、苛立ち紛れに乱暴にしちゃうかもよ)
(なにを、っだよ!)
限界です。
「言っていいの?」
カッシャーン!
「言いわけあるかぁああっ!こ、こっこの、へ、へんた…、っ」
バターン!
「きゃああっ!倫子さんっ」
ぶっ倒れた。
墜ちていく意識の中、倫子は雲雀が小さく笑っているのを確かに見た。
見えて嬉しくなって、嬉しくなったのに、それは真鶸だったんじゃないかと、思い直して―――……。
『橘、』
(世界はぐるぐると廻り廻り、繋がりは止まることなく深く沈んでは消えて、また産まれて)
そうしてふたりは出逢ったんだ。